「気管支喘息」「咳喘息」「アトピー咳嗽」とは何が違うの?
これらは、似ているような、違うような、違いがよくわかりませんよね。
共通点と相違点について簡単にまとめてみました。

気管支喘息とは?

気管支喘息(ぜんそく)とは、以下の条件を満たした場合を指します。

  1. 気管支の慢性的な炎症:白血球の一種である好酸球による炎症が主体です。
  2. 気管支の肥厚:気管支の粘膜が腫れて、筋肉が収縮して、中が狭くなっています。
  3. 可逆性:原因が除去されると上記の1と2は改善します。
    しかし、治療せずに放置していると、気管支粘膜が厚くなったまま戻らなくなります。

これらを満たすと気管支喘息と言えるのですが、診察室では、気管支の粘膜を切り取って顕微鏡で見ることはできないので、これを特定することはできません。
そこで、症状、季節や環境の影響、誘因、薬の効果などで推測することになります。

症状:

発作性の喘鳴(ぜんめい=「ゼイゼイ」と鳴ること)、夜間や早朝に出現しやすい咳や痰、息切れ、胸部の圧迫感などが喘息を疑う所見です。
これらが揃わなくても喘息のことはあり、揃っても喘息ではなく感染による気管支炎(いわゆる風邪)だけの事もあります。

季節の変動や環境の影響(アレルギー物質との関係):

アレルギー物質とは、その人がアレルギーの原因として感じてしまった物質を指します。
この物質が飛んでいる季節や環境との関係を考えてみることが、治療にもつながります。
花粉や蛾の粉などがアレルギー物質の場合は、毎年同じ時期に症状が出ます。
花粉も、杉や檜のように遠くから上空を飛んでくる花粉の場合は、どこに行っても毎日吸ってしまいますが、ブタクサ、ヨモギなどのように100m程度しか飛ばない花粉では、その近くを通らない日は症状が出ません。
ハウスダストなど一年中ある場合は、症状も一年中ということになります。しかし、職場では何ともないのに、家に帰ってくると症状が出る、などといった違いがあります。
旅行に行って、古いかび臭い部屋に泊まってしまったら苦しくなった、などということもあります。
この関係性に気付くことができると、ある程度原因を絞り込む事ができるでしょう。

誘因:

  1. アレルギー
  2. 感染(細菌・ウイルス感染など)
  3. その他
    1) タバコの煙、排気ガス、大気汚染、
    2) 化粧品、消毒薬剤、塗料の臭い、
    3)エアコンの冷たい風、
    4)運動
    5)気圧や気温の変化、
    6)薬剤(アスピリン系薬剤、高血圧の薬の一種であるβ遮断剤)

薬剤の効果:

気管支の慢性的な炎症を、日頃から抑えておくことが基本的な治療になります。
その中心的な薬剤が、吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid: ICS)です。
ステロイド薬の、1回50~200マイクログラムという少ない量を1日1~4回吸うことで、炎症が抑えられるのです。
これを用いて著明に改善すれば、抗酸球による慢性の炎症が主体であったのではないか、とも考えられます。
最近では、この吸入ステロイド薬(ICS)に、気管支拡張薬(長時間作用型β2刺激薬)を配合した薬剤が開発され、β2刺激薬を用いることで気管支の筋肉の収縮も軽減することができ、症状の回復が早くなっています。
日本における喘息による死亡者数は、年間7千人もいましたが、ステロイド吸入薬が普及してから2千人強まで減少しています。2千人からゼロにならないことは、問題ではありますが。
またアレルギーの伝達物質である、ヒスタミンやロイコトリエンをブロックする薬剤(内服薬)も有効です。

咳喘息(せきぜんそく)って何? 気管支喘息と何が違う?

喘鳴や呼吸困難がなく、痰が出ない乾いた咳が続く状態です。すなわち、喘息の症状を伴わないので別な状態に見える咳です。しかし、喘息の前段階として考えるべき状態なのです。
それは、気管支の炎症、気道過敏性を認めていて、すでに気管支の内腔が狭くなっており、アレルギーの関与もあるという点で、気管支喘息と共通しているからです。
咳喘息の患者さんは喘鳴がないために、咳止めだけを飲み続けていて、なかなか効果が無いことがあります。咳喘息の咳には、咳止めよりも気管支拡張剤(テオフィリン・β2刺激薬)が有効です。
30%の方が気管支喘息に移行すると言われているので、咳喘息を繰り返すようであれば、吸入ステロイド(ICS)の継続吸入が必要となります。

アトピー咳嗽(がいそう)って何?  咳喘息や気管支喘息と何が違う?

咳喘息と同様に、喘鳴を伴わない乾いた咳が特徴ですが、気管支拡張薬(テオフィリン・β2刺激薬)の効きが悪い点が大きく違います。
アトピー咳嗽は、アレルギーの関与が強いので、抗ヒスタミン薬と吸入ステロイド薬(ICS)が有効です。そして、典型的な気管支喘息に移行しないことも、咳喘息とは異なっています。
従って、吸入ステロイド薬(ICS)の吸入は、継続する必要はなく、また咳が出始めたら吸入する治療となります。

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